いけばな嵯峨御流

令和元年9月号 華務長対談 辻󠄀井ミカ×学校法人佐野学園理事長 佐野元泰

■日本人の心に根付く命を尊ぶ伝統文化

 

今回対談のお相手は、国際教育の現場に日本の文化を取り入れている神田外語大学の理事長 佐野元泰さん。

その教育理念には日本の文化を重んじる哲学と、仏教の教えが根付いていました。これから国際人として未来へ羽ばたく学生に伝えている伝統文化の在り方を伺いました。

 

◆世界平和につながるコミュニケーションの力

 

華務長 幕張の新都心が見え、モダンな建物も相まって今の日本を象徴するような近未来キャンパスといった風景ですね。

佐野  ありがとうございます。ところが、こういった都市部にいると「日本の良さ」というものを振り返ることが難しい。私も学生もいけばな体験や、展示会など嵯峨御流のお手伝いをさせていただくことで、伝統文化の良さを感じることができます。神田外語大学は、戦後に祖父と祖母が開校した専門学校神田外語学院にルーツがあり、1987年に開学しました。これからの時代、必要なのは日本にやってくる外国の人を理解してコミュニケーションを取ることが重要だと考えたのです。

華務長 神田外語大学の「言葉は世界をつなぐ平和の礎」という学校の理念は素晴らしいことですね。

佐野 言葉がつながれば、世界平和に貢献できます。例えばアメリカでは自己主張を尊ぶ国で、どうしても意見のぶつかり合いがある。そういうときに日本人は真ん中に入り、お互いを理解して終着点を見つける力に優れていると感じます。そのメンタリティーは、きっと根底に仏教の教えがあるからなのでしょうね。

華務長 そうですね。伝統文化も原点を探りますと、仏教なくしては語れません。争わない気持ちなどは感じて覚えていくものです。

佐野 ありがたいことに、いけばなを通じて文化だけではなく、そういった心にも触れることができています。

華務長 実は、弘法大師がまさしく言語に長けたお方でした。遣唐使として唐に渡り、20年かかることをわずか半年で習得され、師匠に「蒼生の福を増せ」と言われたと伝わっています。これは「帰って、まだまだ何もない青々とした草原のような場所に福をもたらし、花を開かせてあなたが今授かった法で日本の国を豊かにしなさい」という意味です。卓越した「言葉の力」によって日本仏教を広めることができました。今日まで続く、日本人のメンタリティーのもととなったのは、すごいことだなぁと思っています。

佐野 そうなのですね。先代理事長である父は「宗教を学べ」と、よく言っていました。神田外語大学は英語をはじめとする外国語を教えていますが、キリスト教を重視していません。あくまで日本の土壌からスタートした語学の学校です。彼いわく、一神教にはない多神教の良さというものが日本にはある。その心を生かしながら、国際人となるべきだというのが当時からの方針です。

華務長 私もそう思います。日本には「和」、「調和の心」という言葉があります。人の思いというものは違っていて当たり前。ましてや、全然違う風土のなかで育っているのですから、違う考えにもなるでしょう。でも究極の目的である世界平和のためには、「調和」の気持ちというものが必要になります。これは仏教の教えに通ずるものであり、神田外語大学の方針にも通ずるものですね。

 

◆いけばなの哲学を語学にも

 

華務長 日本の宗教には、歩みよれないものでもうまく調和させていく力があります。私の父なども、「『一人の人間の命も、草木の命も同じく平等である』という宗教観を持たない、いけばなの道はダメだ」と申しておりました。

佐野 いろいろないけばなを見てきましたが、嵯峨御流のいけばなには自然が息づいているなと感じるのは、そのためなのですね。

華務長 今も残っている1200年前の書が大覚寺にはあります。それによると、嵯峨の風景がその時代からあまり変わっていないことが伺えます。そういった変わらない環境で育まれる風景をいけることは、まるで水の流れのように「命はひとつにつながる」こと、そして「時空を超えて続いている」こと。その哲学が花の形に表れています。

佐野 自然と対話しているのですね。改めて、いけばなは素晴らしいなと感じました。

華務長 お花は、コミュニケーションの1つです。お花を貰っておいて「あなたが嫌いだ」、そう思う人は一人もいません。花は言葉の壁を越えて親愛の情とか、良く思っているという気持ちを表すことができます。

佐野 コンセプトや考え方がものすごくしっかりしている。それが伝統であり、長く続くことにつながるのでしょう。そういった根底のものを、語学に持っていきたいですね。勉強になります。

 

◆体験から生まれる学ぶことへのモチベーション

 

華務長 世界に羽ばたく学生を数多く送り出している佐野さんは、次々と斬新なアイディアを実践していますよね。何か新しい取り組みを考えていらっしゃるのですか。

佐野 今世界中で取り組んでいる課題、SDGs(持続可能な開発目標)についてアプローチする方法を模索しています。これは学生にとって、とても重要なテーマです。自分の属する世界にもっと関心を持ち、課題解決を試みていく必要があると考えています。

華務長 関心を持つことはとても大切。そのためには、言葉の力、コミュニケーションの力が必要。国が違っても状況が違っても、一緒になって解決に向けて取り組む必要があります。

佐野 まさしくそれで、新しい学部を考えているのです。グローバル・リベラルアーツ(国家や国民の枠組みでとらえることが困難な事象を多面的に理解するための専門学術や技法)を学べる学部の創設を検討しています。コンセプトは、まさに先生がおっしゃる通り、世界の問題を先に体験させることです。入学してすぐの6月ごろに短期で3週間ほど留学するプログラムを考えています。

華務長 語学を学ぶ前に、留学するのですか。

佐野 語学よりもまず世界の問題などを感じて、問題解決へアプローチしていかないといけない、そんなモチベーションを与えたい。そこからスタートすれば、学ぶことに対してもっとアクティブになれるはず。学生も入学してから1~2年もすると、何を話したらいいか、どんな話ができるのか分からなくなってしまうのです。

華務長 そうですよね! ものすごくよく分かります。やっぱり佐野理事長は、先見の明がおありなのですね。

佐野 先日インドへ行きましたが、ホテルでは豊富に水が出ます。しかし、一般の家庭では生活用水は出ますがシャワーの水が出る時間は決まっています。特に乾季に入ると水が足りません。でもそれが、その地域では当たり前なのです。

華務長 日本にいると、そういった環境問題を感じることは少ないですね。水問題については、今上天皇も取り組んでいらっしゃいます。日本は世界でも稀な豊富に水がある国で、その珍しさに若い方にももっと気が付いてほしい。きっと世界を知ってはじめて、日本はすごい国なのだともっともっと分かることなのでしょう。

佐野 その通りです。今考えているプログラムでは世界が抱えている問題を肌で感じて、学ぶことができます。現地で普通のアパートメントを借りて暮らし、そこを拠点に語学ボランティアをする、そんな機会を作りたいですね。体感することで学びに対するモチベーションが高まれば、世界が変わっていくのではないかと思います。

 

◆伝統文化を学んで世界へ飛び立つ学生たち

 

華務長 神田外語大学の学生さんには、毎年京都へ足を運んでくださっています。いけばなの体験や日本文化も実際に学び、それを外国の方に実践として伝え、国際的な場面で学生さんが大活躍中です。根底にある日本の文化を実感し学ぶ。本の勉強だけではなく、体感することは素晴らしいことです。

佐野 そうですね。教育機関としていろいろなアプローチがありますが、我々は実践的な教育にフォーカスしている学校です。体験からくる心のゆとり、それを大切にしたいと考えています。例えば誰にでも国内にいながら海外留学体験ができるように、「英国そのもの」をコンセプトに疑似体験型英語研修施設のブリティッシュ・ヒルズを福島県にオープンしました。

華務長 すごい! 神田外語大学はどんどん進化しているのですね。

佐野 いけばなを体験することも同じです。一度でもいいので、日本らしさや伝統文化を経験して、少しでも理解する必要があります。それは海外に行くために現地のことは勉強するのですが、反対に日本の知識、日本に対する勉強はあまりせずに行ってしまうことが多いからです。しかし、海外に行けば日本人として着物は着られるのか、いけばなをやったことはあるか、そんなことを聞かれます。それに対して知らない、分からない、できないではコミュニケーションが取れないのです。

華務長 私もそう思います。外国の方は、日本文化に興味津々です。専門分野の勉強や仕事以外の雑談になったとき、華道や茶道など「道」のつくものを1つでも知っておけば、海外の方が求めている日本の良さや文化的な違いを話せると思います。そこから新しい関係を築けるはずです。

佐野 日本人は恵まれていると、私は思っています。オリジナリティーの高い「道」という文化が日本にはある。しかも、この独特の文化を外国の人は興味を持って認めている。もっともっと、世界の人たちに「道」をはじめとする日本文化を広めたいですね。

華務長 おっしゃる通り。その気になれば、まわりに沢山「道」のつくものがありますし、教えてくださる方もいらっしゃいますから。

佐野 まずは伝統文化を特別なこととしてアレンジし、興味を持ってもらい体験する。ブリティッシュ・ヒルズではオープンしたとき、狂言師の和泉元彌さんに日本語と英語で狂言を披露していただきました。英国の建物のなかで狂言をやると、真新しさを感じてたくさんの人が集まるのです。それを数年続けて、定着させることができました。同じように、いけばなも嵯峨御流のイベントで学生に啓蒙していきたいですね。

華務長 つい、目先のものに目を向けてしまいがちですが、大事なのはこれから先。ずっと伝統文化を継続させていくことです。

佐野 そういうことを模索して、勉強して伝えていくことが大切だと思います。

華務長 佐野理事長の信念のもとで育った学生さんは、大きな志をもって学ばれているのですね。

佐野 これからやることはまだまだたくさんあります。いけばなと大学の双方で協力できることがあれば、是非一緒にやっていきましょう。

 

 

〈プロフィール〉

佐野元泰 さのもとやす

 

学校法人佐野学園(神田外語大学 神田外語学院)理事長。学習院大学経済学部経済学科卒業と同時に、学校法人佐野学園に入職。翌1994年4月に株式会社ブリティッシュ・ヒルズに出向。取締役副支配人を経て、アメリカ合衆国のモントレー国際大学で国際経営学修士号(MBA)を取得。2005年7月に学校法人佐野学園に戻り、理事長室長、執行役員、理事を歴任し、2010年6月より現職。

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