いけばな嵯峨御流

令和元年7月号 華務長対談 辻󠄀井ミカ×東映株式会社京都撮影所所長 妹尾啓太

■ものづくりの根幹にあるのは人としての豊かさ

 

今回のお相手は東映京都撮影所所長の妹尾啓太さん。

数々の名作映画や人気ドラマを世に送り出してきた撮影現場を訪ね、

作品へのそして京都撮影所への尽きせぬ熱い想いをたっぷり伺いました。

 

◆覆ったいけばなのイメージ

 

妹尾 華道祭を拝見して、いけばながあそこまで自由なものだとは知らなかったので驚いたんですよ。花の種類も多種多様、バナナの木を使うなんて思いもよりませんでした。勝手な思い込みで、いけばなというと日本家屋の床の間に飾ってあるというようなイメージでしたが、全然違う。じゃあ、この花はどこに飾ると一番映えるのか。ホテルのラウンジなのか旅館の玄関なのか、あるいはリビングにちょっと置いたらかっこいいなとか、イメージが膨らんで。

華務長 その作品だけを見るのではなく、置き場所を想像しながらご覧になるというのは、さすがに映像の世界の方らしい見方ですね。

妹尾 もう一つ、切り花が萎れずにいるのは1週間くらいだから、花のはかなさとか命のはかなさを感じるのかなと思っていたら、これも覆りました。華務長の花なんか大地に根づいて大木になっていくんだろう、これから何百年も生きますよと、その最初の瞬間のように見えて、これはすごいなと。いけばなとはこういうものと決めつけること自体が間違いなんだなと思いました。

華務長 私の作品は生花という古典に分類される花態なんですけれど、最終的には自然の木の姿を再現していくもので、「大地に根を張る」という大事なところを見ていただけたのはとても嬉しいです。

 

◆いけばなはインターナショナル

 

妹尾 海外のアーティストともコラボレーションされるのですか。

華務長 自分の限られた空間だけですとどうしても固まったものになりがちですので、コラボレーションによって世界を広げることは大切だと思っていますし、特に世界中のアーティストの方とのコラボレーションには限りない可能性を感じています。こうした交流の中で、逆にいけばなの古い様式の中に込められた哲学とか、どういう考えでこういう姿になっているのかというところにも興味を持ってくださる海外アーティストの方もいらっしゃるんですよ。

 嵯峨御流には創立30年になるベルギー支部というのがございまして、先日、そのベルギーのオールバル修道院に当流のスタイルでいけばなを献華させていただきました。西洋のようにシンメトリーな姿ではなく、陰または陽のどちらかに偏った一見アンバランスに見える姿が、非常に風格がある修道院の荘厳な世界の中で一層輝いて見え、「花が生かされた」という感動を覚えました。

妹尾 精神性の部分では共通するものが感じられるのかもしれませんね。海外で花をいけるとなると予定していた花材が手に入らなかったり、また、日本の松のようにそれぞれシンボライズされる木が違っていたりすると思いますが、その時はその国の花を使われるのですか。

華務長 コミュニケーションが一番大事ですので、外国を訪問したときは、そのとき出会った方に一番嬉しいと思っていただけるような花をいけるようにしています。尊敬していますという気持ちを込めてその国の国花を使わせてもらったり、またはその国の風景、例えばドイツですとライン川の流れが素晴らしいなと思いましたら、岩と葡萄畑を花で見立てて、川の流れや水の流れを表現します。その国ならではの風景を見立てていけると、向こうの方々に大変喜んでいただけますし、そこからコミュニケーションが生まれます。いけばなは言葉を超越して、そうした気持ちを端的に表現することのできる優れたツールなんです。

 

◆「日本人っていいね」と感じてもらえる作品を

 

華務長 妹尾さんがプロデューサーの一人として関わられた『バルトの楽園』。あれすごく感動しました。徳島の市民の方もエキストラなどで協力されたんですよね。ハッピーエンドで、見た後すごく爽やかな気持ちになれるいい映画でした。脚本をお読みになったとき、「これはよい映画になるな」というのは分かるものですか。

妹尾 一番初めに読んだときの印象と、映画が出来上がって最初に見たときの印象には近いものがあります。何度も読んでいるうちに面白さが分からなくなったりすることもあるので、最初の印象を大事にしなくてはいけないと。その意味ではプロテューサーは「最初の観客」になるべきだと思っています。自分が一観客としてこの映画を見たときにどう思うか、その視点を失うと一般のお客さんの感覚とズレてきてしまいますから。

華務長 時代劇ってテーマがはっきりしていて夢がありますよね。何より所作が美しい。個人の感性に任せるという現代劇もいいんですけれど、着物の着こなしにしても刀の持ち方にしても、日本という国の中で人々が当たり前に身に付けていたものが随所に出てきますので、そういう所作一つ見ていても面白いなと思います。今、一日中着物を着て料理もして洗濯もして、そんなことできるかなと思いますけど、かつては着物が日常着だったんですものね。そしたら、着物を着て動くときはどうするかとか、いろんな目の付け所があります。

妹尾 今、おっしゃった部分というのは時代劇を作るときのキーワードだと思っているんですよ。「日本人っていいね」「日本人でよかったな」と感じてもらえるようなものを作るというのが大事なんだろうなと。その上で、昔の時代劇のリメイクではなく、今の観客に「現代劇より時代劇を見ている方が面白いよね」と言わせる時代劇をどう作るか。時代劇か現代劇かに関係なく、「この作品は面白いから見よう」と言ってもらえるような作品を作っていけるかどうかが勝負だと考えています。

 

◆時代劇を支える「人」を育てる

 

妹尾 今は俳優も監督もほとんどが東京在住、テレビのキー局も東京にある。出資者の企業も東京にあるので、「京都で撮る」ことにきちんとした意味がないと、じゃあ東京で撮ればいいではないかという話になってしまいます。

華務長 映画やドラマのロケによく大覚寺が使われていますが、お寺の周りは電柱がないし、大沢池は1200年前と位置も姿も変わっていません。役者さんにとっても、京都の太秦の撮影所に行って、こうした景色の中で撮影するというのは嬉しいんじゃないかと素人ながら思うのですが。

妹尾 大覚寺さんにはしょっちゅうお世話になっていますが、時代劇にお誂え向きのロケ地がすぐ近くにあることやベースができている時代劇のセットがあってリーズナブルに作れるのは大きなメリットですね。加えて、時代劇を熟知したスタッフ、鬘や小道具、美術の専門家が集まっている、道具も衣装も揃っているということが大事なんです。私は「時代劇はぜったいに京都の方がいいものが作れる」と思っていますし、そのためにも、5年先、10年先まで時代劇を支えるスタッフがいなくてはいけないし、時代劇ができる俳優、立ち回りもできるし所作もできる、馬に乗れる、船頭ができるといった俳優をここで育てていかなくてはいけない。それが、時代劇を京都撮影所を守っていくことなると思っています。

華務長 京都にはお茶、お花、書、お能、いろんな著名な方、お家元もたくさんおられますし、祇園のお姉さん方は見惚れるような着こなしで、そうした人たちが普通に歩いている町。京都というのは本当に時代劇にぴったりの町なんじゃないかと思います。

 

◆経験を積み、引き出しを増やす

 

妹尾 私は嵯峨美術大学の理事をさせていただいているのですが、せっかく理事になったので、撮影所と大学と何か一緒にやれることを模索したいと思っています。

華務長 楽しい企画ができるといいですね。

妹尾 卒業した後、優秀な学生がこの世界に飛び込んできてくれないかなという期待もあるんですよ。

華務長 それはとても嬉しいことですね。映像の世界ならば、学生さんも学んできたことが発揮できるのではないでしょうか。

妹尾 2月に大学の制作展を拝見したのですけれど、マンガやアニメの業界を志している人がこれだけたくさんいるんだということが分かりました。アニメ業界の裾野はどんどん広がっていて、将来は安泰だなと。

華務長 映像の世界を志す人も多いのではないですか。

妹尾 映画を撮りたい人はたくさんいますが、この業界に入ってくる人はそれほどでもないですね。一番の要因は、それこそスマホでも映画が撮れてしまう時代になったということです。そうすると、助監督やアシスタントの経験をしなくても、自分で作ってしまってそれで認められたらデビューできるんじゃないか、何も進んで徒弟制度っぽい、封建主義的なところに行く必要がないと、そう考える人が増えているんです。ただ、そういう若い人に言いたいのは、最初のうち「感性が面白い」と言われて注目されたとしても、次の新しい感性が登場したらあなた方はすぐにご用済みということになってしまうよ。でもこの撮影所で10年助監督の経験を積んで「引き出し」を増やして監督になったら、一生監督をやっていけるよと。この違いは大きいのですが、若い時はそんなことには気が付かない。早く認められたいし、早く自分がやりたいことをやりたいと飛びついてしまうんですね。

華務長 同感ですね。花の世界でも、フラワーアーティストだとか花いけ人だとかいろんなネーミングを付けて自分の感性だけで花をいける人がたくさん出てきています。ただ、根っこのない人はやはり弱いですね。時代が変われば飽きられてしまう。型を持っている人、しっかり伝統を身に付けた人は、時代が変わっても根幹となる思想とか姿勢、表現の引き出しがたくさんあって、時代が変わっても揺らがない。ですから、若い人には型をまず身に付けてくださいと話しています。それを理解して頑張る人はいいのですが、自分の好きなことしか受け入れない人もいますからね。

妹尾 そうすると視野が狭くなってしまう。作品には、いろんな人の気持ちが分かるとか、そういう人間性がすべて出てくる。結局は、自分がこの世界のどこに立って世の中をどう見ているか、世界観といいますか、そこのところがどれだけ豊かになっているか。物づくりの根幹にあるのは、人間としての豊かさ、その幅だと思いますね。

 

◆もっと魅力的な華道家のドラマを

 

妹尾 太秦の撮影所としての歴史でいうと、阪東妻三郎さんがここに阪妻プロという撮影所を作ったのが最初ですので、あと7年くらいで100年になります。

華務長 阪妻さんは嵯峨嵐山駅のすぐ前にお住まいでしたし、嵯峨周辺にはたくさん役者さんが住んでおられて。子どもの頃、美空ひばりさんが馬に乗って新年のご挨拶に来られていた姿を、家の垣根越しに見た記憶もあります。

妹尾 それはすごい。

華務長 吉永小百合さん主演の『時雨の記』でエキストラとして出演したこともあるんですよ。主人公が嵯峨御流の華道家という設定で、大覚寺の中に華展風景を再現して、100人以上の先生が協力しました。

妹尾 華道界のドラマというと、たいてい次期お家元をめぐる殺人事件みたいなものになってしまって、それは、謝らないといけないと思っています。

華務長 あれがいっそう若い人の華道離れを加速しているのではないかと(笑)。「科捜研の女」のドラマを見て、実際に科捜研を目指す人が出ているそうですので、華道界に憧れてこの道に入ってくる人が増えるように、もっと華道家を魅力的に描くような作品を作っていただけるとうれしいですね。

 

 

〈プロフィール〉

妹尾啓太

 

東映株式会社京都撮影所所長。1962年に岡山県で生まれる。1985年、早稲田大学第一文学部演劇専攻を卒業し、同社に入社。同年10月京都撮影所制作部に配属となり、以降、主にプロデューサーとして活躍。『華の乱』『極道の妻たち・三代目姐』『ひかる源氏物語・千年の恋』『魔界転生』『バルトの楽園』などの映画作品、TBS『源義経』『武田信玄』、フジテレビ『サルと呼ばれた男』などのテレビドラマ製作に携わる。製作部長代理を経て、2017年より現職。

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